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  • Kentaro Osawa

『君の膵臓を食べたいⅡ_02』


 あらすじ:教室で山内咲良から彼女の首元に彫り込まれた「膵臓を食べて下さい」の文字を魅せられて驚愕する僕(北村)は、彼女にその意味を問う。



「山内...これはさすがに...」僕は酷く高鳴る心臓と、血の気の引いた頭とで”自律神経激バグり大会”のうちに混乱を極めていた。


「え、北村君なら分かってくれると思ったんだけどなぁ...」彼女は襟元を直しながら振り向いて言った「だっていつも臓器が何とかって話ばかりしてるでしょ」


「いや、あれは高田がそういうの好きだから、合わせてると言うか」

 言い終わってから、これは高田にフェアじゃない気がした。

「まぁ僕も嫌いじゃないんだけれど」


「うーん、なんかもっと分かってくれると思ったんだけどなぁ」彼女は制服のプリーツスカートのポケットに両手を突っ込んで、取調官のごとくステップを踏んだ。わざとらしく眉間にシワを寄せ、小銭か何かを鳴らしていた。


 僕は制服のスカートにポケットが有るのが何となく気になったが、今はそんなことはどうでも良かった。


「山内...それで、膵臓を食べてもらえないかって、どういうことなの...」


「うん、だから私、何ていうのかな」彼女はくるくる回るようにステップを踏んで、興奮した様子で言った「男子に臓器を食べさせたいっていう欲求が有って...変かな?」


 僕は冗談を聞かされていると思ったが、しかし現に願望の強さの表れとも思える、首に彫り込まれた文字を見せつけられていたから、混乱させられるのはやむを得なかった。


「とても変だと思うよ...もし本当にそんなことを、山内が考えているのだとしたら...」


「まぁまぁ、取り敢えず一緒に聞いてくれ給えや」彼女はどことなく三木道三 - Lifetime Respectを思い起こさせる言い回しで言った「端的に聞くんやけど、俺君は、わいの膵臓食べる気あるんか?」彼女の毛髪がバサッと抜け落ち、スキンヘッドになったその顔は、まさしく三木道三だった。


「北村君、どうしたの?」


 僕は山内の声で我に返り、現実逃避から幻覚を見ていたのを悟った。しかし逃避した先でより深刻な問題に直面させられた今や、もしかすると対峙している現実こそが、実はその人の器量にとって一番マシなのでは無いかと、僕は一歩踏み込むことを選んだ。何せ逃避先では三木道三と対面していたのであるから。


「いや、それで山内、そんなことは不可能だと思うから、考えるのを止めた方が良いと思うよ」


 これは、もしそんなものが有るとして、可能な方法を聞くための質問だった。しかし僕はやはり彼女は冗談、というかポーズを取っているだけで、本心では望んでいないのだと思っていた。その保険が話に乗る余裕を作ってくれた。


「ううん、できるんだよ」彼女はタックインしたシャツの裾を引き出し始め、少し考えるともとに戻した「ちょっと焦りすぎたね、ごめん。私、膵臓が3つ有るみたいで、普通は膵臓って一個でしょ。だから2個は摘出しても全く問題ないの」


 僕は返す言葉も無く、面食らっていた。相当な間抜け面になっていたのかもしれない、彼女は、ふふっと笑い話を続けた。


「今見せようとしたのは、私、膵臓が3つあるから、お腹の横が少し出っ張ってるんだよね。余計な2つ分だけボコって」彼女は右の腰の少し上のあたりをポンポンと押さえながら言った「そのままでも問題ないんだけど、やっぱり見た目が変だから摘出しようと思ってて、でそれを誰かに食べさせたいと思ってるの」


 目眩がし、何を返そうか空っぽな頭が考えられるまで待っていると、教室のドアが勢いよく開いた。


 続く