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  • Kentaro Osawa

『君の膵臓を食たいⅡ_01』

更新日:2月19日


 

 放課後、僕は忘れ物を取りに教室に戻ると、クラスメートの山内咲良が教室の窓から校庭を眺めていた。

 

 彼女は振り向くと、

「あれ、北村君、どうしたの?」

 

「忘れ物を取りに来たんだ。山内こそ1人でどうしたんだ?」


「別に何でもないよ...」彼女はわざとらしく視線を外し、黒板の端に落書きされた担任と僕の名前が相合い傘で一緒になっている落書きが目に入ったらしく、笑い始めた。


 これはクラスのお調子者であり、僕の親友でもある高田が毎日、男子生徒の中から日替わりで名前を選び書き続けている。担任の杉山恭子も面白がっているようで、毎朝「ちょっと、また高田くん〜?」とか形だけ注意はするが、笑いながら消している。


「今日もまた北村君だね」彼女は言った「明日が楽しみだね」


 担任の杉山と僕との相合い傘が一週間続いていた。これは高田の悪ふざけであり、「3日でもう笑いは取れなくなるぞ」と忠告したのを無視して彼は書き続けていた。


 そして僕の忠告は外れて、連日2日目と同じだけの爆笑が沸き起こった。


「こうなったら、新学期いっぱいは続けてもらいたいね」思わずため息が出たが、実際は少し有り難いくらいに思っていた。風が音を立て、桜の花が一気に舞い散った。


「わ、見て綺麗」山内は、窓際の棚に両手をついて景色に見入っている。


 一瞬、僕は山内の横顔に見とれ、そしてポニーテールにした彼女のうなじのあたりを見ると、首の付根に何か書かれているように見えた。ほくろだと思ったが、しかし線のように見える。まさかタトゥーだろうか?


 尋ねようか迷っている僕の目の前で彼女は両手を後ろに回し髪を結び直し始めた。そのときにはっきりと見えたのは「膵臓」の二文字だった。僕のためらいは一気に消し飛び、

「山内、首に何を書いてあるのだい?」

「あ、ちょっと待って」山内は最初より少し高い位置に髪を結び終えると「あのね、これ入れ墨を入れたんだけど」

 

 彼女は僕が背もたれに腕を回す格好で座っている机の前まで来て、

「ちょっと、読んでみて」と後ろを向きブラウスの襟を人差し指で引き下げた。これにはドキッとさせられ、こんなところを他のクラスメートに見られたら、という心配も抱きつつ、立ち上がって覗き込んだ。


「ええと、これは...『膵臓を食べてください』...え、膵臓を食べて下さいってどういうこと?」


 続く