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  • Kentaro Osawa

『Art of 鴨鍋』

最終更新: 6月15日


 『Art of 鴨鍋』


 俺はあのとき、天井からぶら下がる鴨を眺めて「これは何だ?」と尋ねた。


すると、薪を積み上げていた男は「見りゃ分かるだろ、真鴨だ。そんで雄の」と答えた。


俺が聞きたかったのは、そんなことじゃなかった。鴨なのは言われなくても分かる。


俺は、男の物言いが気に食わなかったが、吸っていたタバコを捨て、足で踏み潰して消すと、もう一度普通に訊いた。


「そりゃあ分かってる。なぜ、ぶら下げてあるんだ?」


 すると男は答えた。


「捕獲した鴨だからさ。お前は何が聞きたいんだ?」


 からかっているのかと思ったが、酒焼けで鼻だけ赤い面に、率直な疑問の色を浮かべて、突っ立っている男に、皮肉の才能を見て取ることは不可能だった。


男は、チラと薪の山を眺め、仕事が粗方済んでいるのに安堵した様子だった。向こうからすれば、俺は仕事の邪魔をするだけの、質(たち)の悪い人間かもしれない。


 俺は、タバコ(ゴールデンバット。当時は両切りだった)を相手に勧め、俺も一本取って吸いながら、質問を変えた。


「この鴨は、この後、どうするんだい?」


「この後だって?当面はこうしたままだ。後って言われてもね」と男は、一気に半分燃やし尽くす勢いでタバコを吸い込んだ。「この状態で終わりってことだ」


「玉ねぎじゃ在るまいし...この辺りはそんなに冷え込まないだろう。腐っちまうんじゃないのか」


両切りのタバコを、そんな風に吸う人間は見た試しが無い。


「ああ、そうだな」くわえタバコで不明瞭な発音だった「しかし、それで良いんだ」


 何だか相手との間に壁が築かれた様で、話も通じる気がしなかった。


俺は、2cmくらいの灰を落とし、タバコを口元まで持っていったが、止めて、


「ああ、そう」と答えた。突き放した感じじゃなく、至って同意したという調子で。


 俺は既に諦めていた。だからスマホを取り出して調べた。


(鴨 死骸 吊るす)


 男はビニールハウスの隅で、残りの薪を積み上げていた。薪のぶつかる音は低く、湿っているのが分かる。


先程、手伝うことを提案したが、「いや、コツがいるんでな」と断られた。


確かに薪は、それぞれサイズが違うにも関わらず、隙間なく積まれていた。


容易に真似できまい。先週に起きた震度6弱の地震で、倒れたのを直しているとの事だった。


 俺はスマホに目を落とし、Duck Duck Goの検索でトップにヒットした

『死んだ鴨を吊るす.COM 』にアクセスした。


便利な世の中だ。ウェブサイトも酷く細分化した分野を扱うようになっている。


俺は、吊るされた鴨の写真に添えられた解説文を読み始めた。


成る程。簡単な話じゃないか。猟師が鴨を捕らえたら、両足を麻縄で結わえて吊るす。


これは、猟師たちにとって芸術活動の一貫だと言うことだ。芸術なら納得だ。


理由など聞いても仕方が無い。面長の男は何処と無く、マルセル・デュシャンに似ていた。


~終~


次回、自分の娘に「義亜羅(ギアラ)」と命名を試み、


「キラキラネームです(脂で)」


と、突っぱねる役所の担当者に、交渉する娘の父親にインタビューしてみました。


彼は真剣です(牛の胃袋なだけに←意味不明)。